森见版头日文版


 本文は2019年8月、上海での森見登美彦先生のサイン会時の取材により9月発表するものであり


            ---森見先生、初めまして。インタビューが出来て誠に光栄です。読者の皆さんは既に先生のことをよく知っていると思いますが、改めて簡単に自己紹介をお願いできないでしょうか。

 

森見:私は日本の小説家です。デビューして約十六年になります。主に京都を舞台にした小説を書くことで知られています。しかし本人は京都のそばにあるもう一つの古都奈良に住んでいます。

 

---先生は以前中国にいらっしゃったことがございますか。上海という都市へのご印象について、お教えいただけないでしょうか。

 

森見:中国にくるのは今回が初めてです。上海へは鑑真号という船に乗ってきたのですが、長江をさかのぼって上海が近づくにつれ、「巨大な国へ来た」という印象に圧倒されました。まるでファンタジーの世界へ来たような感じです。あと、街の人たちがたいへんエネルギッシュです。ふだん奈良のような静かな町で暮らしているのでビックリします。

 

---周知の通り、先生の小『ペンギン・ハイウェイ』から改編されたアニメ映画は中国大陸で上映され、人気を博しました。この映画の製作について、どこまでお関わりになられたのか、お教えいただけないでしょうか。

森見:これまでいくつかの作品が映像化されましたが、製作については私はあまり口を出しません(脚本や絵コンテのチェックはします)。原作者としての仕事は、そもそも映像化を許可するかどうかを決断すること、あとは宣伝への協力です。『ペンギン・ハイウェイ』の場合も同じで、映像化を許可したあとは、一度だけ監督やスタッフの皆さんと打ち合わせをしたぐらいで、何も注文はしませんでした。ただし映画の脚本を担当した上田誠さんは友人なので、彼から経過報告のようなものは受けていました。 

 

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 ---中国のファンの多くは、先生の作品の興味深い設定に夢中になり、話題にしています。例えば、神秘的な「偽電気ブラン」などがよい例かとおもいますが、このような設定はどのように生み出されたのか、また、そのインスピレーションの源泉について、お話をいただいてもよろしいでしょうか。

森見:アイデアはいろいろなところからやってきます。しかし一番の源泉といえるものは、やはり「言葉」だろうと思います。面白い言葉を知ったり、思いついたりして、それをどうやって使おうと考えるのです。「偽電気ブラン」というのも、実在する「電気ブラン」というお酒の名前が面白いから、「偽」をくっつけて作ったものです。『ペンギン・ハイウェイ』という小説も、「ペンギン・ハイウェイ」という言葉を知って書き始めました。どんなときでも、そのような想像力を刺激してくれる言葉を探していて、見つけたらメモしておきます。

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  先生の作品の中の京都は、まるで現実と幻想が入り交じる世界として書かれています。かつて、芥川龍之介、川端康成、三島由紀夫といった文豪も京都を舞台にした作品を書かれていますが、京都を背景にした小説の中で特にお気にいりの作品はございますか?その作品について、少しお話をいただけないでしょうか。


森見:あまり京都を舞台にした小説を読んだわけではありませんが、気に入っているものといえば梶井基次郎の「檸檬」という短篇小説です。とくに明確なストーリーはなく、京都の学校に通っている鬱屈した学生が街をさまよい、八百屋で買った檸檬を新刊書店の店先に置いて出ていくだけの小説です。しかし文章が素晴らしいので、これまでに何度も読んでいます。梶井基次郎は20世紀初頭の小説家です。

---先生の作品を通して、京都に憧れを頂き、聖地巡礼に行った中国読者も多数存在します。この現象について、ご感想をお教えいただけないでしょうか。 

森見:私自身も小説や歴史書を読んで、それらの舞台となった場所を旅したことがあるので、「聖地巡礼」の楽しさは分かります。しかしその対象が自分の作品ということになると、なんだか不思議な感じがします。私の身のまわりの場所が「聖地」になるからです。

ただ、私の小説には妄想がたくさん混じっていて、私はいわば「偽京都」を書いているようなものです。だから「聖地巡礼」を楽しもうと思えば、かなり想像力を働かせる必要があります。中国の読者の皆さんが楽しんでくれていることを祈ります。

 ---デビューから今まで、ご作品のスタイルや類型は幅が広く、さまざまな要素が取り入れられていています。先生はどのように、これほど多様な作品を創作できたのでしょうか? 


森見:私は同じような小説を繰り返し書くことができません。自分の考えていることや、新鮮に感じることが、少しずつ変わっていくからだと思います。無理をして過去の作品を模倣しようとすると、たいへんつまらない小説になります。いろいろなスタイルや類型で書こうと思って書いたわけではなくて、そういうふうに変化していかなければ書き続けられなかったというだけのことです。変化せざるを得ないのです。

--- デビューから約16年が経ちましたが、森見先生にとって、作家とは一体どのようなご職業だと捉えていらっしゃいますでしょうか。 

森見:私はいつも小説を書くとき「次は何を書けばいいのか」「どうやって書けばいいのか」と悩んでいて、それは新人賞を貰ったときからぜんぜん変わっていません。十六年経っても、新しい小説を書くときは不安で、デビューしたばかりの新人のような気持ちです。最近では「そういうものなんだ」と諦めつつあります。「俺はベテランだ」「プロフェッショナルだ」「なんでも書ける」と確信が持てるとしたら、それは危険なことかもしれません。作家というものを普通の「職業」のように考えないほうがいいと思っています。 



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