海原望日文版


※このインタビューは、
20205月に中国語にて掲載された記事を日本語版として再編集したものです。

 

----まず海原先生より中国のファンの皆さんに簡単な自己紹介をお願い致します。

 

海原:はじめまして、Liar-soft所属のシナリオライター、海原望と申します。この度は中国の皆様にご挨拶の場をいただけて、大変光栄です。

 

 

----海原先生は今まで参加なさっていた作品と創作された作品は数本ありますが、その中一番印象深いタイトルは何でしょうか? また、創作された沢山のキャラクターの中にご自身にとって一番印象に残るのはどのキャラでしょうか?

 

海原:最も印象深いのは、初めてメインライターをつとめた「フェアリーテイルレクイエム」です。自社作品ということで、「私自身のやりたいこと」を心置きなくやらせていただきました。慣れないことで緊張しましたし、至らない点も多々ありましたが、ある意味でとても純度の高い作品だと思います。

印象に残っているキャラクターは、やはり「フェアリーテイルレクイエム」のアリスです。誰しも幼いころは気になる音楽がぐるぐると頭に流れつづけたり、特定の言語や身体感覚にたやすく酔っぱらったりしますが、その無秩序で無重力な幼年時代の名残をキャラクターに落としこみました。あとは山之内善哉(バタフライシーカー)ですね……。「バタフライシーカー」自体は堅実な作りを目指しましたが、終盤で急に揺り戻しが来たのか、突然彼が降りてきました。

アリスや山之内善哉のような右脳に操られたキャラクターはとても書きやすいです。いわゆる「勝手に動くキャラ」というやつです。他には黒月沙彩(シンソウノイズ)や早乙女羽矢(バタフライシーカー)が該当します。

 

 

----海原望作品といますと、主にミステリーや推理要素が盛り込まれるイメージが強いですが、実際それぞれの作品の傾向は少々まちまちな色があるような気がしますね。例えば「フェアリーテイルレクイエム」はミステリー感を重視し、「シンソウノイズ」では推理を重視されたようなイメージです。また、「バタフライシーカー」は本格推理よりストーリーの伏線回収を重視された感じだと思います。海原先生はどういう風に作品要素のバランスを取り組んでいるんでしょうか?

 

海原:「フェアリーテイルレクイエム」と「シンソウノイズ」は昔からあたためていた作品ですし、特にバランスは考えておりません。

ただ「バタフライシーカー」は「シンソウノイズ」の直後だったので、直球の推理ものは避けるべきだろうとは思っておりました。それならそもそもミステリから離れればよかったのかもしれませんが、「バタフライエフェクトを逆手にとったミステリ」というアイデアはなかなか手放しがたく……。

結果、推理よりも捜査メインのクライムサスペンスを選択する形になりました。


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----ファンディスクというものは基本的に本編キャラクターをめぐりして本編後の展開にするスイートストーリーですが、「フェアリーテイルレクイエムのFDは本編前の話でしたね。また「バタフライシーカー」のFDは本編の続きですが、内容は新しいキャラクターたちを活かせて展開していく新規ストーリーになっています。様々なFDで異なる構成にされるその意味合いについては、少々お話いしていただけますか?

 

海原:「フェアリーテイルレクイエム」のFDは、もとから本編の前日譚を膨らませたい気持ちがあったので、自然とああいった形になりました。「バタフライシーカー」については、どういった内容がいいでしょうか?とシルキーズプラス様に相談した結果、後日談になりました。

私のほうからは「各ヒロインとのイチャイチャを描く日常もの」「本編でルートのなかったキャラクターをメインに据えたミステリもの」などのアイデアを出したのですが、「新ヒロインを出すのはどうですか?」とお返事いただきまして。

最初は本編にもちょっとだけ登場しているとあるキャラクターをヒロインにする予定でしたが、色々と扱いが難しく、一から音無凜子というキャラクターを作ることになりました。

 

----今回Aniplexさんと共同制作で立ち上がった「徒花異譚」について、その制作体制に至った経緯を少しお話頂けますか?

 

海原:アニプレックス様から「ノベルゲームの新規ブランドを立ち上げたい」というお話を頂戴し、ありがたいことにシナリオを担当させていただくことになりました。私もノベルゲームというフォーマットが大好きで、思い入れもたっぷりありますので、この時代にノベルゲーム、美少女ゲームの可能性を信じてくださったことに心から感謝しております。

 

 

----「徒花異譚」はLiar-softさんとAniplexさんが共同開発ということで、最終的な題材選定はどういうやり方で固められたのでしょうか?

 

海原:まずアニプレックス様から大枠として「和」というテーマを提案されており、それを前提にアイデアを練って、私から4案ほど提出しました。「抜け忍」とか「田舎の因習」とか、日本の風土を感じさせる題材の中で、直感的によさそうだと思ったものを素直に並べた覚えがあります。

その中で「日本昔話を巡る物語」が採用され、「徒花異譚」へと繋がりました。実は当時において、このアイデアが一番、具体性がないものでした。可能性を感じてくださったのかもしれません。

 

 

----ある意味で「徒花異譚」は海原先生初めて執筆なさる短編作品でしょうか? 今ま

での作品と比べて何か新鮮な感覚(異なる部分)はありますか? 執筆されていた途中に何か問題でも生じたし、どう解決されたのでしょうか?

 

海原:「徒花異譚」は確かに初めての短編ですね。今までの長編とはかなり勝手が違っていて、それだけにとても苦労しました。黒筆白姫というキャラクターについては比較的あっさりと決まったのですが、肝心のストーリー構築がうまくいかず、二転三転してアニプレックス様には大変ご迷惑をおかけしました。

一旦ひとつのお話にまとめたものの、設定ばかりが肥大化した不格好な筋になっていたので、まるごと没にした──なんて経緯もあります。実は「徒花異譚」はその没話の一角を切り離し、膨らませることで作られました。本当なら迷走するだけの無為な時間になってもおかしくないものを、新しい形にして生かすことにつながったのは、アニプレックス様の適切な助言のおかげです。


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----今回の「徒花異譚」は再び大石竜子先生とご一緒に仕事されることになりましたね。今回の共同創作は以前より何か新鮮なチャレンジがあるんでしょうか? 

 

海原:今回のテーマである「和」は、私にとっても大石さんにとっても慣れない路線への挑戦でした。

大石さんは、描画のための素材集め、技法の習得、着物を描くノウハウなど、新たに体得することが多くて、さぞかし苦労されたのではないでしょうか。やりとりさせていただくだけでも、真摯に取り組まれているのがわかりました。その情熱は、絵を見ていただければ伝わると思います。筆で払ったような豪快な線と、こだわりに満ちた繊細な線。まさに大石さんにしか描けない世界ですよね。私のほうは、一応「オイランルージュ」や「帝都飛天大作戦」などのサブライティングを通して、和のテイストを書いたことがないわけではありません。ただ、ライターとしてのアプローチは意識的に変更しました。

今回は、筋立ても文体も、「何よりも大石さんの絵を生かしたい」という一方向を目指しています。もちろんゲーム作りは色々と同時進行ですので、私がシナリオを書き終わるほうが絵の作業よりもずっと早いのですが、それでも執筆の合間に届く素敵な絵から鮮やかなイメージをいただきました。

大石さんの絵に相応しい、華やかな色彩描写や迸るような感情表現を目指して奮闘しました。少しでも実を結んでいたら嬉しいです。

 

 

----「フェアリーテイルレクイエム」本編とFDは外国の童話にも少し触れましたが、今回の「徒花異譚」では日本の民間伝説(おとぎ話)を軸にされてましたね。これに関しては元々海原先生のご趣味でしょうか?(笑)

 

海原:お伽話は人並みに好きだと思います。傾倒している、というにはおこがましいレベルですが。幼いころは日がな一日絵本を読んでいました。その時代の一番の興味は、「ブレーメンの音楽隊がクライマックスで奏でる大合唱は『それぞれの鳴き声があわさって、世にもおぞましいおたけびに聞こえた』などと描写されているけど、実際のところどんな音だったんだろう?」ということだった気がします。残念ながら、ロバ、犬、猫、鶏の鳴き声を実際に合成している音源を聴いたことは、未だにありません。もしそういったものがありましたら教えていただけますと嬉しいです。

それと、「まんが日本昔話」というアニメ番組も大好きでした。幼少のころから怖がりの怖いもの好きだったので、怖い話ばかり印象に残っています。「吉作落とし」とか「飯盛山」とか、忘れたくても忘れられません。

 

 

----今までの海原望作品には特別なゲームシステムがあるような気がします。例えば「シンソウノイズ~受信探偵の事件簿~」の推理システムと「バタフライシーカー」のムシクイシステムなど。もう一方、今回の「徒花異譚」体験版にはそのようなシステムはなさそうですが、今後の正式版には出せる予定がありますか? 今までこういったシステムを導入されたことにつきまして、何か特別なお考えがありますでしょうか?

 

海原:「シンソウノイズ」や「バタフライシーカー」のゲームシステムは、シルキーズプラス様の技術あっての仕様です。「シンソウノイズ」の企画をライアー社内に提出したこともあるのですが、システム的に実装できるかどうかがネックになって見送られた経緯もあるので、形にしてくださったシルキーズプラス様には心から感謝しています。

「徒花異譚」もシルキーズプラス様がシステム開発をされていますが、今作については特別なシステムはありません。当初は少し予定していたのですが、ストーリーの上で「やりたいこと」を突きつめた結果、この作品にはシンプルな選択式があっていると判断しました。小説を読む感覚でストーリーを追いながら、要所要所で「IF」を模索するというのは、ノベルゲームの根源的な面白さだと思いますので、そのあたりを楽しんでいただけたら幸いです。

 

 

----今頃ゲームシナリオライターは小説業界に挑戦していく方が多いですが、海原先生も以前のインタビューで小説執筆に興味あるとおっしゃったような印象がしますが、もし機会があれば、どんなジャンルをお書きなさっていきたいですか? やはりミステリー系や推理系でしょうか?

 

海原:実現性はともかくとして、もし機会をいただけるならミステリかホラーを書けたら嬉しいです。ゲームのシナリオと小説は似て非なるものですが、だからこそ小説でしか出せない味わいに挑戦してみたいな、という思いがあります。

 

 

----現在日本の美少女ゲームもどんどん海外市場に展開していますね。Liar-softさんの「赫炎のインガノック」中国語版もこの間Steamでリリースされました。今作「徒花異譚」も同様に海外の展開はありますが、こういう動きについて海原先生はどう思いますか?

 

海原:「赫炎のインガノック」中国語版をご愛顧いただきましてありがとうございます。日本の美少女ゲームには、他のジャンルにはない可能性がたくさん詰まっていると思いますので、これを機にたくさんの方に知っていただけたら嬉しいです。

 

 

----最後に中国の読者に一言をお願い致します!

 

海原:ここまでお読みいただきましてありがとうございました。たくさんの方のお力をお借りして、なんとか「徒花異譚」の完成にこぎつけました。子供のころ、次から次へと飛びこんでいった絵本の世界と、怖い話を聞いた後に溺れた悪夢を思い出しながら、ワクワクドキドキしてもらえるような話を目指しました。

たくさんの方に楽しんでいただけたら嬉しいです!

何卒応援よろしくお願いいたします。

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