濑古浩司日文版
このインタビューは、202012月に行われたものです。

----瀬古先生はじめまして、軽の文庫Vol.1です、此度にインタビューできて光栄でございます。ひとまず読者にご挨拶をお願いします。

 瀬古まずは皆さん、『呪術廻戦』を見てくださり、ありがとうございます。
『呪術』の世界にどっぷり浸かり、楽しんで見てくださるのが一番です。

それに勝る喜びはありません。

 

----現在「呪術廻戦」のアニメは絶賛放送中ですが原作コミックも大人気です。本作のアニメシナリオを書くにあたり、原作の魅力を表現するためのポイントは何でしょうか?
 
瀬古今回脚本を書く際に最も心がけたのは、原作の世界観を忠実に再現するということです。それは原作をそのまま脚本に引き写せばいいわけではなく、原作のコマとコマの間の空白を補完したり、文字だけで表現されているコマに最適な絵を当てはめたり、あるいはキャラクターのちょっとした動きやアクションを足したりといった「映像として翻訳する」ということをしています。

これは他の作品でもやっていることではありますが、今回に関しては尺的な余裕がかなりあったため、他の作品にくらべても原作の再現度は高くなっていると思います。

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----今回のアニメ製作において、何か難しいことはございますか?あるいは何か面白いことは?

 瀬古前提として、僕はある原作を脚本にするという行為は、ある意味では究極の深読みとも言えると考えています。

その上で、『呪術廻戦』は原作がとにかく面白く、またいい意味で不親切(説明を省いている)な部分があるので、脚本を書く過程で通読しただけではわからなかった新たな発見があったりして、脚本を書いている時はとても楽しいです。

 また、今回は芥見先生から「漫画で使っているナレーションを使わないで欲しい」というご要望があったため、原作のナレーション部分をキャラクターの台詞やモノローグに置き換えているので、そこの部分は少し難しかったです。

あとは#10で(これも芥見先生からのご要望で)吉野順平のオリジナル・エピソードを足しているのですが、そこも少し難度が高かったです。やはりこれだけの人気作なので、少しでもキャラクターにブレがあると怒られますから、最新の注意を払いました。

 

----シリアスなストーリーにコメディ要素が織り交ぜられていることが、呪術廻戦の大きな魅力の一つだと思います。こういった要素は意図的に描かれているのでしょうか?

 瀬古シリアスなストーリーにコメディ要素、あるいはユーモアを織り交ぜるという手法は映画や小説、漫画、アニメ等で昔から連綿と受け継がれてきたものだと思います。ただ、ここ15年くらいでそれがより顕著に、より意識的になったと感じています。それを最も自覚的にやったのがマーベル作品だと考えています。

そして『呪術廻戦』もその大きな流れの中にある作品であると思います。

ただ、シリアスなストーリーにいかに自然にコメディ・ユーモア要素を織り交ぜるかは非常に難しく、作者のセンスが問われる部分でもあり、その点で芥見先生は抜群のセンスを持っていると思います。

そしてアニメに関しても、その部分を損なわないよう意識して描いています。

 

----本作において、先生が一番お気に入りの(魅力的な)キャラは誰ですか?その理由をお聞かせください。

 瀬古前半部分でいうと、吉野順平が好きです。順平は悠仁みたいに超人的な力もないし、伏黒みたいな呪術のエリートでも、釘崎みたいに確立した自我を持っているわけでもありません。ただの高校生で、たまたま真人に出会ってしまったばかりにああいうことになってしまった。当然引き返す道もあったけど、彼の置かれた状況が否応なく彼を真人の方へと進ませた。

それは現実の世界に生きる我々も同じで、ほんのちょっとしたことで「真人的なるもの」へと通じる道に進んでしまう可能性をもっていると思っています。だから他人事とは思えない。僕も映画が好きなのでなおさらです。

 順平以外だと伏黒、七海、メカ丸、夏油がお気に入りです。何故彼らがお気に入りなのかは原作の先の方の内容に触れるためネタバレになってしまうので、ここでは伏せておきます。

 

----先生が思う、シリーズ構成という役割はどのようにアニメの「質」に影響するのでしょうか?何か創作上のコツなどありますか?

 瀬古シリーズ構成というのはその作品の根っこの部分を決めるものだと思っています。シリーズ構成によってその作品のストーリーの部分がだいたいどんな風になるかが決まります。そこがうまくいっていないと、どれだけすごい絵コンテや作画があっても「なんかつまんないなあ」となってしまいます。

その上で、僕がシリーズ構成を作る時は「各話数で何を中心に語るか」と「次話数への引きを如何にカッコよくするか」を意識します。海外ドラマ(『ウォーキング・デッド』や『ゲーム・オブ・スローンズ』、『コブラ会』、『シカゴ』シリーズ等々)が好きなので、それを参考にしています。

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----先生は多くのアニメ製作に携わってこられた中で、オリジナルアニメと原作のあるアニメ両方を経験されてきたかと思います。脚本創作における、この二種類のアニメの区別を詳しくお話頂けないでしょうか?

 瀬古オリジナルアニメと原作のあるアニメの違いは明確で、オリジナルアニメは「0からいかに1を生み出すか」、原作のあるアニメは「すでにある1をいかに100にするか」ということです。

が、作劇ということに関しては両者の本質は同じで、通常のテレビシリーズの場合は1話数約20分の中でいかに良いリズムでストーリーを語るかが肝だと思っています。どこからストーリーを始めて、どこで溜めて、どこで盛り上げ、どう終わらせるか――これがいかにリズム良く、そしてカッコよく見せられるかが作品の質を決定すると思います。

そしてさらに言うなら、オリジナルにしろ原作ものにしろ、あるいはテレビシリーズにしろ劇場作品にしろ、作劇には「正解」があると考えています。これはなかなか言葉で説明するのは難しいのですが、ストーリーの組み立て方やシーンの配置の仕方、間の取り方、台詞の分量等、実に様々な要素を構成してひとつの話数を作るのですが、その構成の仕方には「正解」があるということです。しかしその「正解」は常に闇の中にあり、容易にそこに辿り着くことはできません。

ペレルマン博士が証明する以前のポアンカレ予想に多くの数学者が魅了され、それを証明しようと没頭してきたように、僕も作劇の「正解」を求めて毎日脚本を書いています。

 

----先生は昔、制作進行を勤めた経験がおありかと存じます。この経験は脚本創作にどのような影響がございましたか?

 瀬古制作進行をやっていた時に絵作りの現場の大変さを身をもって経験したため、シナリオは滞りなく終わらせるということを意識しています。シナリオというのはアニメ制作では一番最初の工程のため、ここで躓いて時間を食ってしまうとそのしわ寄せが絵作りの現場にすべていってしまい、ただでさえ大変な作業がさらに壮絶なものになり、結果として質が落ちてしまいます。

それを避けるためにもシナリオはなるべく早く終わらせます。締め切りは絶対に守るし、またシナリオ会議の回数も減らします。通常だとシナリオ会議は週に1回、あるいは2週に1回という感じだと思いますが、僕の場合は4~5週に1回にしています。その代わり、脚本を4~5本まとめて提出するというスタイルを取っています。アニメの監督はシナリオ会議の他にも実に様々な打ち合わせや作業をこなさなければならないので、シナリオ会議で多くの時間を取ってしまうのは申し訳ないという考えからです。

それにこちらとしても脚本を書くのに1ヶ月というまとまった時間があった方が自分のペースで進められるので、まさにwin-winです。

 

----先生は現在放送中の「呪術廻戦」以外にも過去に様々なアニメのシリーズ構成・脚本を担当していらっしゃいます。多忙な日々をお過ごしかと思いますが、ご自身はどのように業務を管理されているのでしょうか?

 瀬古僕の場合は小説家の村上春樹さんをロールモデルにしていて、氏のように規則正しい生活をすることを心がけています。

朝起きて仕事をし、昼には終わらせます。午後は映画や海外ドラマを見て、夕方から打ち合わせに出ます。打ち合わせがない時はジョギングをして、シーズン中であればビールを飲みながら野球を見ます。決められた家事・育児をした後、ウィスキーを飲みながら音楽を聴いたりドキュメンタリーを見たりして、本を読んで寝る。

これを月曜日から日曜日まで毎日繰り返します(たまに休肝日をもうけますし、仕事が終わった後で映画館に行ったり買い物に出かけたりもします)。役人のように、判で押したような毎日です。飽きないか? 全然飽きません。

 

 

----現在アニメ「呪術廻戦」の放送内容はすでに過半になりました。今後の見どころも含め、読者に紹介してください。

 瀬古今後の見どころは交流会後半のvs特級呪霊のくだりです。

これまでは東京校vs京都校という構図だったのが、特級呪霊の乱入によって東京校&京都校vs特級呪霊となり、それまで敵対していた両校が手を組み、特級呪霊と戦うという熱い展開となります。そして交流会ラストは「○○回」というお楽しみ回も待っています。僕はこれが楽しみで仕方ありません。

皆さん、最後まで『呪術廻戦』をよろしくお願いします。

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